BtoB ECの始め方|卸販売をオンライン化する方法と進め方の目安

「卸先からの注文がFAXと電話で毎日届き、入力と確認だけで半日が終わる」——卸販売を持つメーカーや問屋から、よく聞く悩みです。BtoB EC(企業間EC)は、取引先からの注文をWeb上の受発注サイトで受けられるようにし、受注入力・在庫確認・請求までの手作業を減らす仕組みです。ただし、一般消費者向けのネットショップと同じ作り方では、取引先ごとの価格や掛け払いに対応できず、結局FAXに戻ってしまうこともあります。この記事では、BtoC ECとの違い、始める前に決めること、構築方法の選び方、取引先に使ってもらうための移行の進め方、つまずきやすい注意点を順に整理します。
⏱ 忙しい人向け 3行まとめ
- BtoB ECは「新しい販路づくり」より、既存の卸先との受発注をオンラインに移す業務改善として始めると進めやすい傾向があります。
- BtoC ECとの大きな違いは、取引先別の価格・掛け払い・請求書発行・会員の承認制。ここに対応できる仕組みを選ぶのが前提です。
- 全取引先を一度に移さず、注文頻度の高い取引先数社から試し、FAX注文と並行しながら段階的に切り替えるのが現実的です。
BtoB ECとは|卸販売をオンラインで受ける仕組み
BtoB ECとは、企業同士の取引(卸売・部材の販売など)の受発注を、Webサイトやシステム上で行う仕組みのことです。一般消費者に売るBtoC ECに対して、取引先の小売店・飲食店・施工業者・代理店などが、ログインして商品を選び、発注するのが基本の形です。
経済産業省の「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2025年8月公表)によると、2024年の国内BtoB-EC市場規模は514.4兆円、EC化率は43.1%とされています。ただしこの数字は、大企業間のEDI(電子データ交換)などを含む企業間の電子商取引全体のものです。中小のメーカー・問屋の現場では、今も電話・FAX・メールでの受注が中心というケースが少なくありません。2026年9月時点でも、BtoB ECは「これから整える余地が大きい業務」と捉えてよさそうです。
BtoB ECを導入すると、次のような変化が期待できます。
- 受注入力の手間が減る……取引先が自分で注文を入力するため、FAXの読み取り・転記・入力ミスの確認が減ります。
- 24時間注文を受けられる……営業時間外や休日にも注文が入り、取引先側も電話がつながる時間を待たずに済みます。
- 在庫・納期の問い合わせが減る……在庫数や出荷予定をサイトで見られるようにすると、「今ありますか」の電話が減りやすくなります。
- 営業の時間を提案に回せる……定番品の補充注文がオンラインに移ると、営業担当が新商品の提案や新規開拓に時間を使いやすくなります。
BtoC ECとの違い|取引条件に合わせる仕組みが必要
BtoB ECとBtoC ECのいちばんの違いは、「誰にでも同じ条件で売る」のではなく、「取引先ごとに決めた条件で売る」点にあります。一般向けのカートをそのまま使うと、この部分で行き詰まりやすくなります。
| 項目 | BtoC EC(一般消費者向け) | BtoB EC(企業間) |
|---|---|---|
| 価格 | 全員に同じ販売価格 | 取引先ごと・ランクごとの卸価格、数量による単価変更 |
| 支払い | クレジットカード・コンビニ払いなどの即時決済 | 掛け払い(月末締め翌月払いなど)、請求書払いが中心 |
| 会員 | 誰でも登録・購入できる | 審査・承認した取引先だけがログインして購入 |
| 注文の単位 | 1個から | ケース単位・最低発注数量・ロット指定 |
| 書類 | 領収書・納品書 | 見積書・納品書・請求書(適格請求書への対応を含む) |
| 見せる商品 | 全商品を公開 | 取引先ごとに扱える商品を出し分けることがある |
| 注文の傾向 | 新規の購入者が多い | 同じ取引先による定番品の繰り返し注文が多い |
とくに取引先別価格と掛け払いは、BtoB ECを選ぶときの中心になる機能です。請求書の発行はインボイス制度(適格請求書等保存方式)の要件にも関わるため、書類の記載事項は最新の国税庁の案内や税理士に確認してください。
一般向けカートで代用するときの注意
「会員限定ページ」や「クーポンで卸価格にする」といった方法で一般向けカートを代用する例もあります。取引先が少なく価格体系が単純なうちは回ることもありますが、取引先別価格・掛け払い・与信管理が増えてくると運用が複雑になりやすいため、将来の取引先数も見込んで判断するのが目安です。
始める前に決めること|対象・範囲・ルール
BtoB ECは、システムを選ぶ前に「誰の、どの注文を、どのルールでオンラインに移すか」を決めておくと、構築後の手戻りが少なくなります。
① 対象にする取引先
注文頻度が高い取引先、FAX・電話対応の手間が大きい取引先、ITに抵抗の少ない取引先から候補を洗い出します。全社一斉ではなく、最初の数社を決めておくと進めやすくなります。
② 載せる商品と価格体系
定番品・補充品から載せるのが一般的です。取引先ごとの掛け率やランク、数量割引のルールを一覧にし、例外がどれくらいあるかを把握しておきます。
③ 支払いと与信のルール
掛け払いの締め日・支払期日、与信枠の考え方、新規取引先の審査手順を決めます。自社で与信管理をするか、掛け払いの決済代行サービスを使うかもここで検討します。
④ 社内の業務フロー
注文が入った後の在庫引き当て・出荷指示・請求の流れと、販売管理システムや会計ソフトとのデータ連携の方法を整理します。
ここで「例外の多さ」を把握しておくのが大切です。取引先ごとに口頭で決めた特別価格や、電話で受けている急ぎの注文などがどれくらいあるかによって、選ぶ仕組みも移行の進め方も変わります。
構築方法の選び方|規模と取引条件で判断する
BtoB ECの構築方法は大きく3つに分かれ、取引先の数と取引条件の複雑さ、既存システムとの連携の必要度で選ぶのが目安です。
| 方法 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| BtoB向けのクラウド型サービス(SaaS) | 取引先数十〜数百社規模で、取引先別価格・掛け払い・承認制など標準的な機能で足りる場合 | 月額費用がかかる。独自の取引ルールが多いと標準機能に合わせる工夫が必要 |
| BtoC向けカート+BtoB機能の追加 | すでに自社ECを運営していて、同じ基盤で卸販売も受けたい場合 | アプリや拡張機能で対応できる範囲を事前に確認。掛け払い・請求書発行は別サービスとの組み合わせになることが多い |
| パッケージ・スクラッチ開発 | 取引先数が多い、基幹システムとの連携や独自の価格・納期ルールが多い場合 | 初期費用と開発期間が大きくなりやすい。要件定義に時間をかける前提で考える |
中小のメーカー・問屋では、まずクラウド型サービスで小さく始め、取引先と取引量が増えてから連携や拡張を考える進め方が落ち着きやすい印象です。費用は機能や取引先数によって幅があるため、複数のサービスで見積もりを取り、初期費用・月額・決済手数料・連携の追加費用を合わせて比べるのが目安です。一般的なカートの違いはカートシステム比較も参考になります。
選ぶときに確認しておきたいのは、次のような点です。
- 取引先別価格・ランク別価格・数量割引を、自社のルールどおりに設定できるか
- 掛け払い・請求書発行に対応しているか(外部サービスとの連携を含む)
- 会員登録を承認制にでき、取引先ごとに見せる商品を出し分けられるか
- 販売管理・在庫管理・会計ソフトとCSVやAPIでデータ連携できるか
- 取引先が迷わない注文画面か(過去の注文から再注文できる、品番で検索できる など)
取引先に使ってもらう進め方|段階的に切り替える
BtoB ECが定着するかどうかは、システムの機能よりも「取引先が実際に使ってくれるか」で決まりやすく、FAX注文と並行しながら段階的に移すのが現実的です。
STEP1 社内の受注フローを整理する
現在の受注から出荷・請求までの流れと、取引先ごとの価格・締め日・例外ルールを一覧にします。ここが曖昧なままだと、システムに設定できずに止まりやすくなります。
STEP2 試験導入する取引先を選ぶ
注文頻度が高く、関係の近い取引先を3〜5社程度選び、事前に説明して協力をお願いします。「FAXも引き続き受けます」と伝えておくと、受け入れてもらいやすくなります。
STEP3 商品・価格を登録してテストする
定番品から登録し、取引先別価格・送料・請求書の出力が想定どおりか、社内で注文テストを繰り返します。
STEP4 試験導入し、使いにくい点を直す
1〜2か月ほど運用し、取引先から「探しにくい」「再注文が面倒」といった声を集めて画面や商品の並びを直します。
STEP5 対象を広げ、オンライン注文を標準にしていく
改善後に対象の取引先を広げます。新規の取引先は最初からオンライン注文を基本にし、既存取引先には案内を重ねながら切り替えを進めます。
取引先にとっての使うメリットを具体的に伝えることも大切です。たとえば「営業時間外でも注文できる」「在庫と出荷予定がすぐ分かる」「過去の注文から数クリックで再注文できる」といった点は、取引先側の手間削減として伝えやすいポイントです。オンライン注文に限った特典(送料条件の優遇など)を設ける方法もありますが、既存の取引条件との整合を社内で確認してから検討してください。
つまずきやすいポイントと注意点
BtoB ECで問題になりやすいのは、立ち上げそのものより、既存の取引ルールや社内業務とのずれが運用後に表面化する部分です。
- 例外ルールがシステムに乗らない……口頭で決めた特別価格や個別の納期対応が多いと、結局電話での確認が残ります。導入前に例外を洗い出し、整理できるものは整理しておくと移行しやすくなります。
- 在庫の数字がずれる……BtoC ECや実店舗と在庫を共有している場合、連携の頻度が低いと欠品の注文が入りやすくなります。在庫連携の仕組みは在庫管理の基本もあわせて確認しておくと安心です。
- 二重入力が残る……受注データを販売管理や会計ソフトに手で入力し直す運用だと、効果が半減しやすくなります。CSV取り込みやAPI連携で、どこまで自動化できるかを事前に確認します。
- 与信・未回収のリスク……オンラインで新規の取引先を受け付ける場合、審査や与信枠の管理が追いつかないと未回収につながるおそれがあります。承認制にする、掛け払いの決済代行サービスを使う、といった備えが目安です。
- BtoC向けの価格が見えてしまう……同じ基盤で一般向けと卸向けを運用する場合、卸価格や取引先向けの商品が一般の購入者に表示されないよう、ログイン前後の表示を必ず確認します。
- 取引先への案内が一度きりになる……案内を1回送っただけでは切り替えが進みにくい傾向があります。営業訪問や請求書送付のタイミングで繰り返し案内すると、少しずつ定着しやすくなります。
EC参謀の見立て
私たちの現場では、BtoB ECは「新しい販路を作るプロジェクト」として大きく始めるより、今いる取引先との受発注の手間を減らす業務改善として小さく始めるほうが定着しやすい印象です。いきなり全取引先・全商品で切り替えようとすると、例外ルールや取引先の戸惑いで止まりがちです。注文頻度の高い数社と定番品から試し、FAXと並行しながら「受注入力の時間がどれくらい減ったか」を数字で確かめる——そこから広げていくのが現実的な一歩だと考えています。
よくある質問
Q. 取引先が少ない小さな卸でも、BtoB ECを導入する意味はありますか?
A. 取引先が10社前後でも、注文頻度が高くFAX・電話の受注入力に毎日時間を取られている場合は、導入を検討する価値があります。一方で、注文が月に数回程度で手間が小さい場合は、月額費用に見合わないこともあります。まずは「受注入力と問い合わせ対応に月何時間かかっているか」を出し、サービスの月額費用と比べて判断するのが目安です。
Q. 一般向けのネットショップと卸販売を同じシステムで運用できますか?
A. カートによっては、会員ランク別価格やBtoB向けのアプリ・拡張機能を使って、同じ基盤で一般向けと卸向けを運用できる場合があります。在庫や商品情報を一元管理しやすい利点がある一方で、掛け払いや請求書発行は別サービスとの組み合わせになることが多く、卸価格が一般の購入者に見えない設定も必要です。対応できる範囲は、各サービスの最新の仕様で確認してください。
Q. 掛け払いに対応するには、どんな方法がありますか?
A. 大きく分けて、自社で与信・請求・入金消込を行う方法と、企業間の掛け払いを代行する決済サービスを使う方法があります。自社で行う場合は手数料がかからない代わりに、与信管理や未回収のリスクを自社で負います。代行サービスは手数料がかかる一方で、与信審査や請求書の発行・回収を任せられる場合があります。取引先数と取引額、社内の経理体制で比べるのが現実的です。手数料や条件は2026年9月時点でもサービスごとに異なるため、最新は各社の公式情報で確認してください。
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