在庫管理の基本|適正在庫・発注点の考え方

在庫管理がうまくいかない店舗の多くは、能力ではなく基準を持っていないだけです。「そろそろ切れそうだから発注する」という運用は、担当者の感覚に依存するため、欠品と過剰在庫を交互に繰り返します。この記事では、適正在庫の考え方・発注点と安全在庫の計算式・在庫回転率の読み方・ABC分析による優先順位づけ・週次と月次の運用フローまで、今日からエクセル1枚で始められる形で順に整理します。数値はすべて目安として提示するので、自店の実績に置き換えて使ってください。
⏱ 忙しい人向け 3行まとめ
- 適正在庫とは「欠品コスト」と「過剰在庫コスト」の合計が最も小さくなる量のこと。ゼロを目指すものでも、多ければ安心なものでもない。
- 発注のタイミングは発注点=1日あたり平均出荷数×調達リードタイム+安全在庫で決める。感覚ではなく数式に置き換えるだけで欠品は大きく減る。
- 全SKUを同じ精度で管理しない。ABC分析で上位2割に手間をかけ、残りは簡易ルールで回すのが現実的な運用。
在庫管理とは何か|ECで管理すべき3つの数字
在庫管理とは、必要な商品を必要な量だけ持ち続けるために、在庫の「数量・金額・動き」を把握してコントロールする業務です。倉庫の整理整頓ではなく、資金と機会損失をコントロールする経営の仕事だと捉えると、優先順位を間違えにくくなります。
ECの在庫管理で追うべき数字は、突き詰めると次の3つに集約されます。
① 現在庫数(実在庫と引当在庫)
倉庫にある実物の数と、注文が入って確保済みの数は別物です。販売可能な数=実在庫-引当在庫。この区別が曖昧だと過剰販売が起きます。
② 出荷スピード(1日あたり平均出荷数)
直近30〜90日で1日に何個売れているか。すべての在庫計算の土台になる数字で、これが無いと発注点は決められません。
③ 調達リードタイム
発注してから入庫して販売可能になるまでの日数。仕入先の出荷日数だけでなく、検品・登録の時間も含めて数えます。
この3つが揃うと、「いつ・どれだけ発注すべきか」が自動的に決まります。逆に言えば、在庫管理がうまくいかない店舗は、たいていこのうちのどれかを計測していません。とくに見落とされやすいのが調達リードタイムを「仕入先が言った日数」のまま使っているケースです。実際には検品や商品登録の時間が上乗せされるため、体感より2〜3日長いのが普通です。
なお、在庫管理を「倉庫の話」だと考えていると、販売側の施策と分断されます。広告を強めれば出荷スピードは上がり、発注点も変わります。在庫管理は販促と同じ会議で扱うべき数字です。
適正在庫の考え方|「多すぎ」「少なすぎ」のコスト
適正在庫とは、欠品によって失うコストと、在庫を抱えることで発生するコストの合計が最も小さくなる在庫量のことです。「在庫は少ないほど良い」でも「切らさないことが第一」でもなく、両方のコストを天秤にかけて決めるものだと理解するのが出発点になります。
それぞれのコストを具体的に並べてみます。
在庫が多すぎるときのコスト
- 資金の拘束……仕入代金が在庫の形で寝てしまい、広告や新商品に回せない
- 保管料……自社倉庫でも家賃と人件費、外部倉庫なら坪単価や容積課金が毎月かかる
- 陳腐化・値引き処分……型落ちや賞味期限で価値が下がり、最終的に粗利を削って売ることになる
- 作業効率の低下……棚が埋まるとピッキング動線が伸び、出荷ミスも増えやすくなる
在庫が少なすぎるときのコスト
- 売上の機会損失……買う気のあるお客さまを他店に渡してしまう
- モール内での不利……在庫切れが続くと露出やランキングが落ち、復帰に時間がかかる
- 顧客の離脱……「あの店はいつも品切れ」という印象は、リピート率に長く影響する
- 緊急対応の追加費……小ロット発注や航空便への切り替えで、単価と送料が跳ね上がる
実務で厄介なのは、この2つのコストの見えやすさが非対称な点です。過剰在庫は倉庫と決算書に残るので誰の目にも見えますが、欠品による機会損失はどこにも記録されません。その結果、「在庫を減らせ」という号令だけが強くなり、欠品が常態化している店舗は少なくありません。
欠品損失を「見える化」する簡単な方法
在庫切れになったSKUについて、切れていた日数 × 直近の1日あたり平均出荷数 × 販売単価を毎月集計してみてください。これが概算の機会損失額です。数字にして初めて「切らさないための在庫」に予算をかける判断ができるようになります。
発注点の決め方|計算式と具体例
発注のタイミングは、次の式で決めます。発注点=1日あたり平均出荷数 × 調達リードタイム(日)+ 安全在庫。在庫数がこの発注点を下回った瞬間に発注をかける、というルールにすれば、担当者の感覚に頼らずに運用できます。
具体例で確認します。ある商品の直近90日の出荷実績が900個だったとしましょう。
① 1日あたり平均出荷数を出す
900個 ÷ 90日 = 10個/日。季節性が強い商品の場合は、直近30日と前年同月の両方を見て高いほうを採用すると安全側に倒せます。
② 調達リードタイムを確定する
仕入先の出荷まで10日+輸送2日+検品・登録2日 = 14日。仕入先の申告値ではなく、直近数回の実績の平均で置くのがポイントです。
③ 安全在庫を決める
この例では 25個 とします(求め方は次の見出しで解説します)。
④ 発注点を計算する
10個 × 14日 + 25個 = 165個。在庫が165個を下回ったら発注、という基準が完成します。
次に決めるのが発注量です。発注点が「いつ」を決める数字であるのに対し、発注量は「いくつ」を決める数字で、両者は別々に設計します。実務では次のいずれかで運用するのが一般的です。
| 方式 | 決め方 | 向いている商品 |
|---|---|---|
| 定量発注(発注点方式) | 在庫が発注点を割ったら、毎回決まった量を発注する | 出荷が安定していて、通年で売れる定番品 |
| 定期発注 | 週1回・月1回など発注日を固定し、その都度必要量を計算する | 需要変動が大きい商品、仕入先の締め日が決まっている商品 |
| 都度発注 | 受注に合わせて個別に手配する | 受注生産品、単価が高く在庫リスクを取れない商品 |
1回の発注量を決めるときは、次の発注までに売れる量+最低ロット+送料が最適になる単位の3つで折り合いをつけます。小まめに発注すれば在庫は減りますが、1回あたりの仕入送料と発注作業の手間は増えます。在庫を減らすことだけを目的にすると、発注回数が増えて実務が回らなくなるので、月1〜2回に収まる発注量を基本形にしておくと現実的です。
安全在庫の求め方|欠品リスクをどこまで許容するか
安全在庫とは、需要のブレやリードタイムの遅れを吸収するために上乗せしておく在庫のことです。「念のため多めに」ではなく、許容する欠品率から逆算して決めます。
統計的な計算式は次のとおりです。
安全在庫の計算式
安全在庫 = 安全係数 × 1日あたり出荷数の標準偏差 × √調達リードタイム(日)
安全係数は「どこまで欠品を許容するか」で決まる数字です。欠品率10%を許容するなら1.29、5%なら1.65、1%なら2.33を使うのが一般的な目安です(正規分布を前提とした値)。
先ほどの例で計算してみます。1日あたりの出荷数が平均10個、その標準偏差(バラつきの大きさ)が4個、リードタイムが14日、欠品率5%を許容する場合は次のようになります。
1.65 × 4個 × √14 ≒ 1.65 × 4 × 3.74 ≒ 約25個。これが先ほどの発注点で使った安全在庫の根拠です。
標準偏差はエクセルの STDEV.P 関数で、日別出荷数の列を指定すればすぐに求まります。難しく感じる場合は、簡易版として「リードタイム中の最大出荷数 - リードタイム中の平均出荷数」を安全在庫に置く方法でも実用に耐えます。
この式から読み取ってほしいのは、安全在庫を押し上げる要因が2つあるという事実です。ひとつは需要のバラつき(標準偏差)、もうひとつは調達リードタイムの長さです。つまり、在庫を減らしたいなら発注ルールをいじるより、リードタイムを短くするか、需要の振れ幅を小さくするほうが本質的な打ち手になります。仕入先との交渉で納期を14日から7日に縮められれば、安全在庫は理論上√2分の1、およそ3割減らせる計算です。
広告やセールを打つ前に安全在庫を見直す
広告の投下やクーポン配布は、平均出荷数だけでなくバラつき(標準偏差)も大きくします。施策前の安全在庫のまま販促をかけると、想定以上のスピードで在庫が減り、いちばん売れているタイミングで欠品します。大きな販促の前は、対象SKUの安全在庫を一時的に引き上げておくのが定石です。
在庫回転率とABC分析|数字で優先順位をつける
在庫の健康状態は、在庫回転率と在庫回転日数の2つで診断します。回転率は「一定期間に在庫が何回入れ替わったか」、回転日数は「今の在庫が何日分あるか」を示す指標です。
計算式は次のとおりです。
| 指標 | 計算式 | 読み方 |
|---|---|---|
| 在庫回転率 | 期間の売上原価 ÷ 期間の平均在庫金額(原価) | 数値が高いほど在庫が効率よく現金化されている |
| 在庫回転日数 | 365日 ÷ 在庫回転率 | 今の在庫が何日分あるかを示す。長いほど資金が寝ている |
例えば年間の売上原価が6,000万円、平均在庫金額(原価)が1,000万円なら、回転率は6回、回転日数は約61日です。この数字は業種によって適正値が大きく異なります。生鮮や消耗品なら回転日数は数日〜2週間、アパレルやインテリアなら2〜4か月が普通、といった具合です。他社の平均値と比べるより、自店の前年同期と比べて悪化していないかを見るほうが実用的だと考えてください。
そのうえで、すべてのSKUを同じ精度で管理する必要はありません。ここで使うのがABC分析です。売上金額の大きい順にSKUを並べ、累計構成比で3つに分けます。
Aランク(累計〜70%)
売上の大半を作る主力。発注点・安全在庫を個別に計算し、週次で在庫数を確認します。欠品は絶対に避ける対象です。
Bランク(〜90%)
準主力。発注点は設定しつつ、確認は月次でも回ります。欠品しても短期間なら許容範囲と割り切ります。
Cランク(〜100%)
裾野の商品。個別計算はせず「在庫が◯個を切ったら発注」の簡易ルールで運用。むしろ廃番候補の選定対象として見ます。
多くの店舗で、Aランクは全SKUの2割前後に収まります。在庫管理の精度を上げるべきなのはこの2割だけで、残り8割に同じ手間をかけると運用が破綻します。まずは自店のSKUをこの3つに仕分けするところから始めると、どこに時間を使うべきかが明確になります。
週次・月次の運用フロー|続けられる形にする
在庫管理は仕組みではなく習慣で差がつきます。理想の計算式を作っても、確認する日が決まっていなければ運用は止まります。次のサイクルを目安に、自店のカレンダーに固定してください。
Aランク商品の在庫数と、発注点を割ったSKUの一覧を確認。該当があればその日のうちに発注をかける。
過去7日の出荷数を更新し、Aランクの1日あたり平均出荷数を再計算。急に伸びた商品・落ちた商品をチェックする。
在庫回転日数を算出。90日以上動いていない滞留在庫を抽出し、値引き・セット組み・廃番の判断を行う。
ABC分析をやり直し、ランクの入れ替えを反映。調達リードタイムの実績値を仕入先ごとに更新する。
実地棚卸(実物を数えて帳簿と突き合わせる作業)は、全点を一度に行うと負担が大きいため、循環棚卸にするのが現実的です。Aランクは毎月、Bランクは四半期ごと、Cランクは年1回というように分けて回せば、通常業務を止めずに精度を保てます。
帳簿と実物がずれる原因は、たいてい決まっています。検品時の数え間違い、返品在庫の戻し忘れ、サンプル出荷の未計上、破損品の未処理の4つです。ずれを見つけたら数を直して終わりにせず、どの工程で発生したかを記録してください。同じ原因が3回続いたら、それは作業手順の問題です。
今週から始める在庫管理チェックリスト
- 直近90日の出荷実績から、主力SKUの1日あたり平均出荷数を出した
- 仕入先ごとの調達リードタイムを、申告値ではなく実績の平均で把握した
- Aランク商品について発注点と安全在庫を計算し、一覧表にした
- 在庫が発注点を割ったときに気づく仕組み(アラート・週次チェック)を決めた
- 90日以上動いていない在庫を金額順に並べ、上位20品目の処分方針を決めた
よくある失敗と、その避け方
在庫管理でつまずくパターンは驚くほど共通しています。代表的な4つと、その回避策を挙げます。
①「売れ筋だから多めに」で発注量を決めてしまう。売れ筋こそ数式で管理すべき対象です。感覚での上乗せは、好調が続いている間は正解に見えますが、需要が落ちた瞬間に最大の滞留在庫に変わります。伸びているなら平均出荷数を更新して発注点を上げる、という手順を踏んでください。
②仕入ロットに引きずられて過剰に発注する。「あと20個足せば単価が下がる」は、在庫回転日数が悪化しないかを確認してから判断します。単価が5%下がっても、売り切るのに1年かかるなら保管料と資金拘束で相殺されます。値引きロットの誘惑には、回転日数で答えを出すのが原則です。
③販路ごとに在庫を分けて持ってしまう。楽天用・Amazon用・自社サイト用と在庫を分割すると、片方で欠品しているのにもう片方で余る、という事態が常態化します。基本は一元管理で、モール側には共通の在庫数を反映させる設計にしてください。物理的に倉庫が分かれる場合(FBAと自社倉庫の併用など)は、配分比率を月次で見直すルールを決めておきます。
④滞留在庫の処分を先送りする。「もう少し様子を見る」の間にも、保管料と資金拘束のコストは毎月発生しています。90日動かなければ処分検討、180日動かなければ処分実行、というように日数で機械的に線を引いておくと、判断が感情に流されません。
EC参謀の見立て
在庫管理の相談を受けるとき、最初に確認するのは在庫の量ではなく「発注を決めているのは数式か、人か」という一点です。数式で決めている店舗は、欠品しても過剰になっても原因を特定でき、次に改善できます。人の感覚で決めている店舗は、同じ失敗を毎年繰り返します。精緻なツールを入れる前に、主力20SKUの発注点をエクセルで計算して壁に貼る——その1時間の効果が、いちばん大きいと考えています。
よくある質問
在庫管理はエクセルとツール、どちらで始めるべきですか?
SKU数が50前後までで、販路が1つならエクセルで十分に回せます。判断の分かれ目は「SKU数」ではなく「販路数」です。楽天・Amazon・自社サイトのように販路が複数になると、どこかで売れた瞬間に他の販路の在庫数を手で直す必要が生まれ、更新の遅れがそのまま過剰販売(在庫がないのに注文が入る状態)につながります。販路が2つを超えたら、在庫連携ができる受注管理システム(OMS)の導入を検討する時期だと考えてよいでしょう。逆に販路が1つなら、SKUが数百あってもエクセル+モールの在庫機能で運用できている店舗はあります。まずは発注点と安全在庫をエクセルで計算する習慣をつけ、手作業が追いつかなくなった時点でツールに移すのが、費用対効果の高い順番です。
季節商品やセール期間の在庫はどう見積もればいいですか?
通常期の計算式をそのまま使わず、「基準となる期間」を入れ替えて計算します。平常時の発注点は直近の平均出荷数から求めますが、スーパーSALEやブラックフライデーのような山では、前回の同じイベント期間の実績を基準に置き換えてください。前年の同イベントで通常週の3倍売れたなら、その3倍を前提に日次平均を置き直して発注点を再計算します。あわせて、イベント前は調達リードタイムが延びやすい点も加味が必要です。仕入先の生産・出荷が混み合い、通常14日が21日になることは珍しくありません。リードタイムが延びれば発注点も上がるため、イベントの4〜6週間前には発注を済ませておくのが安全な目安です。なお売れ残りリスクも同時に上がるので、イベント後の値引き処分ラインを発注時点で決めておくと判断がぶれません。
在庫を減らしたいのですが、どこから手をつければ効果的ですか?
金額の大きい滞留在庫から手をつけます。多くの店舗は「点数の多いもの」から整理しがちですが、資金を圧迫しているのは点数ではなく金額です。まず在庫を「在庫金額(原価×数量)」で降順に並べ、直近90日の出荷がゼロまたは極端に少ないものを抜き出してください。この上位20〜30品目だけで、滞留金額の大半を占めているケースがよくあります。抜き出したら、値引き販売・セット組み・アウトレット枠・返品交渉・廃棄の順に処理方法を検討します。判断の目安として、今後1年で売り切れない量を抱えているなら、保管料と資金拘束のコストが値引き幅を上回ることが多いため、早めに現金化したほうが有利になりがちです。並行して、同じ品目の発注点を下げないと同じ状態が再発するので、処分と発注ルールの見直しは必ずセットで行ってください。
「やることが多すぎて、手が回らない」——そんな時は。
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